エッセイ優秀賞


1995年エッセイ・優秀賞

『米寿協奏曲』

静岡県 渡辺君子
45歳 (主婦)

 
  「貴女は長生きだ。80歳まで生きられる」
 ある占いの方が私の顔を見て話しかけた。
 「そんな、88歳まで生きたいのに」
 今時80歳は平均寿命にも及ばない。私が88歳まで生きたいのにはわけがある。無料占いの文字を横目で確認して彼の前に座った。顔を見たり名前を聞いた後で彼は言った。
 「貴方はパワーを持っている。病気もケガも跳ね返す。96歳まで大丈夫。」
 その言葉を聞いて私はニンマリとした。
 38歳の時、50年後の米寿の祝いのパーティーの招待状を印刷し、すでに発送したのだった。同封した返信はがきには、私もびっくりの元気な返事が返ってきた。
 「胸の開いたまっ赤なドレスを着て、若いボーイフレンドにポルシェで送らせます」
 「主人も一緒に出席させて下さい。その時92歳になる彼が是非とも参加したいと言うのです」
 「私は受付けを手伝わせて下さい。50万円札や100万円札を数えるのが楽しみです」
 「ごめんなさい。出席できないかもしれません。その頃世界一周旅行をしている予定です。でも忘れずに祝電は打ちましょう」
 私が88歳なら友達も90歳前後のはず、皆の元気に圧倒されてしまった。ともかく私も元気でいなくてはいけない。生命保険を考えて一番気になり大切な医療保険を充実させた。それもばっちり。恋と好奇心は無限のエネルギーがあるらしい。 長生きするんだもん。

寸評
審査員・内館牧子
 「元気」というのは伝染します。元気な人のそばにいると、必ず元気になれるものです。みんなを元気にしてくれるような、とてもヴィヴイッドな文章でした。米寿のパーティーには私もジープを運転して伺いますからね。