1996年エッセイ・入選
『あなたへ』
東京都 池上純子さん
36歳 (主婦)
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「君はたぶん知らないと思うけど、日曜の夜は眠れないんだよ」
結婚して十一年、あなたから聞いた、初めての弱音。
終電で帰れない日が一年近く続き、私だったら愚痴も言うだろうし、やつあたりもするだろうけど、ただ黙々と会社へ行くあなた。
妻として、どう言ってあげたらいいのか、言葉さえ見つからなかった。
土曜日に、子ども達を外に連れ出して、ゆっくり寝かせてあげることしかできない自分に、もどかしさを感じてた。
あなたのそんな一言でちょっとホッとしたの。眠れない時は、この前みたいにいつでも言ってネ。腰を押すぐらいお安いご用よ。
そうそう、この間相談した生命保険だけど、養老保険にしたらどうかしら?
あなたには言わなかったけど、ちょっと不安だったの。子ども達もまだ小さいのに、あなたがこのまま過労死でもしたら…って。
ちょっぴり高いけど、どうせなら満期保険金付きの御守りの方がいいでしょ。
もう一度、二人で遊びましょ。 六十歳のニ度目の青春なんて素敵じやない?
学生の時みたいに、また、ラグビーや鈴鹿の8耐に行ってみない?
もう、バイクじゃ無理だと思うけど…・ネ。
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