1996年エッセイ・入選
『十年目の夫婦』
神奈川県 尾澤敦子さん
37歳 (主婦)
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「僕が死んだら、この家のローンが全部払い終えて、それでもって月々、今よりももっと生活費がドド〜ンって入るんだよ」
ある日夫がそう言った。
「だいたい、君はもう働くなんて無理だろう。僕と同じくらい、稼いで、子供ふたりを育てるんだよ。そんなこと、無理に決まっているんだ」
うーん、彼は自分の偉大さを語っているのだろうか?
「この家だって、君が使い易いように設計してもらったんだ。手離すなんて、とんでもないし」
どうしちゃったの、急に…。
「だからね、日々の生命保険の支払い料金が大変だって言っても、まさかのときのためなんだよ」
ああ、私がワンピースを買いたいわって言ったこと?やんわり断っているワケ?
「僕はクルマをよく運転するし、最近はちょっと働き過ぎだし」
あれ、いたわれってことかな。 「なにがあっても、君には苦労はさせたくないんだよ」
なんだ、まだ『愛してる』ってことか。そりゃあ、ありがとう。 私もよ!
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