エッセイ優秀賞 |
あなたも好きね、と彼女。 イエイエ、貴女のお陰ですって…と私。 受取人はお互い様。母と私の生命保険は、いつも相談して決める。 女ってね、不安なものよ、と母。 わかってる。だから入れる時入るのよ、と私。 今さら加入できない父と、結婚しちゃった弟に、それはもう関係なく、私たち母娘二人の楽しみであり秘密。 入院の時はね…と母。 わかってる。あれとあれでしょ。で、あそこにある証券と、連絡先は・・…。 ちがうの。もう、保険のことはあなたにまかせてるから、心配してないの。 じや、何? うんと派手なパジャマ買ってきてね。 了解。まだまだ入院しそうにもないけどね。女はやっぱり先の先の先まで考えて、楽しみを付け加えてゆくわけだ。 これが女の長生きのヒケツかも…。 それとね、もしも、死んだらね、と母。 まだ、死にそうにもないけどね、と私。 でも、言っとくわ。 独り者なんだから、私の残したお金、少ないけど、年金にしなさいね。やっぱりお金しかないもんね、女には。 そうね、と私。 まだ保険と年金だけに頼るつもりはないけれど、これも親孝行。反論はしなかった。 |
審査員・内館牧子
一行目の書き出しなど絶品です。「うまいなァ」と私は声に出したほどです。 母と娘が「会話」しているというよりも、「つぶやき」をかわしているようなタッチがとても新鮮。「大切な母」なんて一言も書いていないのに伝わる文章力はみごとです。 |