エッセイ入選


1996年エッセイ・入選

『現在・過去・未来』

静岡県 渡辺幸子さん
24歳 (主婦)

 当時、交際していた彼と四年目にして別れ、お互いに別々の道を歩み始めた時、私は自分自身の為に一本の生命保険に加入し、この先ずっと一人で生きて行く事を心に誓った。ところが、ある出来事をきっかけに私達は縒りを戻し、現在は幸せに結婚しました。
 結婚して数日後、新居に見慣れぬ女性が訪ねて来ました。話を聞けば主人の保険担当者で、主人は待っていたかのように、早速机の上に一枚の保険証券を広げ一言「受取人を変更したいのですが」と言ったので何げなく保険証券に目をやると、受取人は自分自身、日付はニ人が別れたあの日から数日後であった。彼も私と同じ考えで保険に加入したという事を聞き、驚きました。
 担当者は「受取人は奥様で宣しいですね」と当たり前のように言い、新しい申込書を出し始めました。主人は確かめるように記入をし、私も受取人の欄に記入し、書き終えたと同時に命を預け合うパートナーになった。主人は仕事が忙しく、婚姻届も私一人で提出し、二人が一緒に何かすることが今までなかったが、この申込書は揃って担当者に提出できた。まるで新郎新婦が誓いの言葉を述べたような感動がありました。
 担当者は様々な特約等の説明をした。出産、七五三、成人式、言葉は未来になり私に語ってくれた。過去を現在に書き変え、未来を夢見た一日は、きっと忘れる事はないだろう,