1996年エッセイ・入選
『釣りの夜』
愛媛県 村上あき子さん
28歳 (主婦)
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釣りへ行った夫の帰りが遅い。6力月の息子はもう眠ってしまった。連絡くらいくれればいいのに、電話のない海辺にいるのだろうか。
ふと生命保険を見直していないことに気がついた。縁起でもないと思いながら、夫にもしものことがあったら我が家はどうなるのか心配になりだした。
結婚したときも、出産したときも変更をすすめられたが、結論を先送りしてきた。保険が必要になる。そんな場合のことは考えたくなかったのだ。保険金は少ない額のままだ。
あどけない寝顔を眺めながら"何があっても守ってあげるからね"と、心の中で息子に話しかけた。"でも大学には行かれないかもしれない
…こめんね"私に答えるかのように息子が身をくねらせた。
いや、車の音に反応したのだ。帰ってきたのだ。安堵と怒りがこみ上げてきた。きまり悪そうにから咳をしながら夫が玄関に歩いてきた。まずは、とことん怒ろう。そして晩酌をしながらじっくり相談しよう、生命保険について。
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