エッセイ入選 |
「おい、生命保険に入ったぞ」と主人がぶ厚い封筒をポンと置いたのは、私が産後二日目を迎える産院のベッドの上でした。 「え〜」と驚く私に「おっぱいの時間、まだか?」なんて尋ねているこの男は、それまで保険のホの字にも全く興味の無い人でした。 彼と私が結婚する時、互いの保険の話を、一応するにはしたのですが、何だか自分の命とお金を天びんで計られている様な気がして、二人とも入る気にはなれませんでした。 私が死んだらとか、彼が…とか、そんな物騒な話、考えたくもありませんでしたから。 しかし、幾度か加入を勧められてもガンとして受付けなかった彼がどうでしょう。この変わりよう! マタニティー・ブルーのせいもあってか、『私と赤ちゃんの為に保険に入ってくれた』なんて私はすっかり感激し涙がポロポロ。 加入したのは、こども保険と彼の生命保険。一度にニ口もです。今迄保険に対して抵抗のあった彼はもちろん、私にしても保険の設計書を見ながら涙して悪い気持ちがしなかったのは、不思議な話です。むしろ生まれて間もない二人の子供が成長していく過程でも想い描くかの様に、ほのぼのと暖かい気持ちでした。 赤ちゃんの力ってすごいな!偉大だなあと、私のおっぱいに吸いついてる、おさるの様な我 が子を、しみじみと見入ってしまいました。 |