エッセイ入選 |
ゴルフ場からの帰り道、うとうとっとして思わずハンドルがぶれた。割り込んだ対向車線に、ダンプがいた。 「お陀仏だ…と観念したよ。さすがプロ。向こうが避けてくれた」 歳なんだから気をつけて下さいと、妻のありきたりな小言は聞き流した。夕食のテーブルには、孫娘を連れた長女と、ニ歳下の長男もいた。孫娘は乳離れしたばかりだ。 「俺が今、事故死したら…・・4,500万円の遺産ができたのにな」 誰も聞いていないようだ。 「誕生日が来ちゃったら、パーなんだぞ」 「そうね、来月でお父さん定年だったわね」 長い間ご苦労様と、妻は付け加えた。子供たちは何の関心も示さない。 「会社で加入した団体保険だから、退職したら自動的に解約される。高額の保険金を狙って、父の定年前の死を願う子供……。サスペンスドラマに関心はないか」 「ばっかみたい」 叫んだだけでは飽きたらず、我が娘の頬に口を寄せて、おじいちゃん本当にお馬鹿さんねと、長女は駄目を押した。 「あなた達、お父さんが元気で無事だったから大きくなれたのに、感謝してないの?」 妻の目は、無邪気に笑っていた。はっと気付いた。この退屈なほど幸せな家族の生活を支えてきたものが、何であったのかを! |