エッセイ優秀賞


1997年エッセイ・優秀賞

『私、三十四才』

大阪府 植田真由さん
34歳 (主婦)


  私三十四才、主婦。
子供が生まれた時、
「私も保険入ろうかな」って主人に言った。
「いらないよ。お前死んでも誰も生活困らんだろう」 主人に言われた。
「それもそうだね」その時は何となくうなずいて、 それ以来その話はしていない。
 だけど、それってそうなのかなあ。
 近頃ふっと考える。私、三児の母。無職、無収入。でもね、本当は私ってすごいのよ。
 泣き虫、だだっ子、やんちゃ盛りの三才児。鉄砲玉みたいに、出ていったら帰ってこない六才児。絶対「はい」と言わない理屈こね屋の八才児。毎日そんなのばっかり相手に一日過ごすのだもの。私のかわりなんて、どこさがしたって見つかりっこない。声を大にして主人に言ってやりたい。
 だけどきっと、そんなこと、主人も子供も考えもしないのだろうな。
 ー  私って何だろう。
 家族にとって、私って何だろう。
 本当に私がいなくなっても、誰も生活困らないのかしら一
 あの時は何でもなかった一言が、最近なんだか気になりだした。
  私、三十四才、家族を支える中黒柱。

寸評
審査員・玉村豊男
  その通りですね。地球を支える半分が女性であるように、家の半分は主婦が支えているもの。「中黒柱保険」というのは、これからの男性にとって切実なものになるかもしれません。いっぺんストでもして、存在感をわからせてあげたらどうですか?