エッセイ入選


1997年エッセイ・入選

『父さんが僕に残してくれたもの』

京都府 大久保幸子さん
20歳 (学生)


  「今、僕がこうして大学に通えるのは、父さんが生命保険に入っていたからなんだ。」  お昼休みの生協食堂で友達がつぶやいた。
 「僕の父さん、高3の夏に死んだんだ。ちょうど受験勉強の真っ最中だったよ。母さんを支えていかなくちゃいけないし、兄弟もいる。僕、母さんに『高校卒業したら、働くよ』って言った。そしたら母さん、こう言ったんだ。『大学行きたいんでしょう。勉強頑張りなさい。大学で好きなこと学んで、父さんみたいなりっぱな大人になってよ。それが私の財産なんだから。』 この言葉を聞いた時、胸がじんとした。自分のためにも、母さん、そして死んだ父さんのためにも頑張ろうと思った。今、学費も下宿代も父さんの生命保険金からだしてもらってる。母さんの老後の費用が代わりに減ってるんだけど。だから、卒業したら、実家に戻って、母さんと弟の面倒をみるつもりなんだ。」
 彼は授業には全て出席する。彼の家庭状況を知らなかった私には、授業一コマ一コマが父さんからのプレゼントである彼が、どんな思いで学生生活をおくっているのか少し垣間見た気分になった。
 彼のお父さんは、生命保険金を通して、彼に学問を与え続けている。生命保険がこやしとなり、りっぱな実が成長していくのを彼の家族は楽しみにしているだろうし、私も彼にエールを送りたい。