エッセイ入選


1997年エッセイ・入選

『昼休み』

愛知県 加藤さやかさん
24歳 (会社員)


  K係長は、身長190cm。やせ型。顔はとりわけハンサムというわけではないけれど、その腰軽いノリのよさと軽妙な話しぶりは、35才という年齢も妻子持ちの所帯じみた匂いも感じさせず、社内の女の子たちのウケもよい。話題のお店や芸能ニュースにも通じていて、一緒に飲みに行くことも多い。
 今日も昼休み、私のとなりに座り込んで、栄に新しくできたイタリアンレストランの話を熱心にしていた。その時、
 「Kさん、今日は。先週おっしゃっていた、はるかちゃんのプラン、お持ちしましたよ」   振り向くと、社内で顔見知りの女性営業職員のYさんがにこにことパソフを差し出していた。
 「あっ、ありがとう。どうもすいません」 と、K係長はくるりと私に背を向けると、受け取ったパンフをすぐさま開き、Yさんの説明を真剣に聞き始めた。
 そうか、K係長の家のはるかちゃん、たしかもうすぐ1才になるんだっけ。K係長も家へ帰れば二児の父親なんだ。自分の幼い娘の保険のことをちゃんと考えているんだわ。当然といえば当然なのだけれど、軽いノリで女の子たちとふざけている普段のイメージからすると、あまりに意外で、感心してしまった。
 席を外しながら、ちらっと顔をのぞくと、いつもとは少し違う、パパの顔。心なしか、少し暖かく、頼もしい顔に見えた。