生命保険協会長就任にあたって(所信)

一般社団法人 生命保険協会
会長 永島 英器

会長

一人ひとりの豊かな人生に寄り添い、持続可能な社会を未来へ

生命保険業界は、相互扶助の精神のもと、お客さまの人生に寄り添い、確かな安心をお届けすることを社会的使命として事業を行っています。

近年、生命保険業界を取り巻く環境は大きく変化しています。

度重なる自然災害の発生、資源価格の高騰や為替の変動等、国民生活において先行きが読めない不確実な状況が続いています。また、生成AIが急速に広まり、マイナンバーカードが普及する等、社会のデジタル化が進展するとともに、SNS社会の到来やコロナ禍におけるさまざまな経験を経て個々のライフスタイルが変化したことで、価値観の多様化が進んでいます。

日本経済においては、経済活動の正常化や緩和的な金融政策等を背景に回復基調が継続し、本年2月には日経平均株価がバブル期の最高値を更新する等、明るい兆しが見えてきました。

このような時代の転換点を生きる我々は、「いま」だけを考えるのではなく、将来を担う「未来世代」も含めた長い時間軸で物事を考える必要があります。お客さまの人生に寄り添い、長期的な視点で社会課題解決に取り組むことができる生命保険業界だからこそ、持続可能な社会づくりに向けた役割を果たすことができると考えています。

国民一人ひとりの豊かな人生に寄り添いながら、持続可能な社会の実現に貢献し、これからの時代を担う未来世代へ社会をつなぐため、今年度は次の3点を軸に取り組んでまいります。

1.顧客本位の業務運営の推進

お客さまに確かな安心をお届けするという生命保険業界の社会的使命を果たすためには、お客さまの最善の利益を追求する「顧客本位の業務運営」が最も重要です。

生命保険協会では、顧客本位に資する具体的な実務取扱い等を取りまとめた自主ガイドラインを作成し、会員各社の取組み状況をフォローアップすることで、会員各社において適切な業務運営がなされるよう後押ししてまいりました。また、乗合代理店における顧客本位に資する業務品質向上のため、代理店業務品質評価運営を行っています。

今年度は、外貨建て一時払保険における販売・管理等態勢について、4月に実施した各種ガイドライン改正を踏まえ、商品組成会社である保険会社、および、販売会社である金融機関の取組みをフォローアップすることで、各社の取組みを後押ししてまいります。また、コンプライアンス・リスク管理態勢については、2023年2月に公表した「営業職員チャネルのコンプライアンス・リスク管理態勢の更なる高度化にかかる着眼点」をもとに、引き続き好取組事例の共有等を行い、会員各社の取組みの高度化に貢献してまいります。

2.国民一人ひとりの豊かな人生の実現に向けた取組み

長い人生を豊かなものにするためには、自分自身の価値観に応じてライフプランを描き、健康増進や資産形成、リスクへの備えについて学び、行動に移していくことが大切です。

日本政府は、「成長と分配の好循環」の実現に向けた重点施策として、資産運用立国を実現し、経済の成長と国民の資産所得の増加につなげていくことを掲げており、家計の安定的な資産形成の支援のひとつとして、金融経済教育の充実をめざしています。本年4月に設立された「金融経済教育推進機構(J-FLEC)」では、講師派遣やイベント・セミナーを通じ、幅広い年齢層に向けて、国民一人ひとりのニーズに応じた金融経済教育が提供されるものと期待しています。

生命保険協会においても、「自助」の大切さと「自助」「共助」「公助」を適切に組み合わせていくことの必要性を国民の皆さまに理解いただくべく、保険教育に関する教材や動画コンテンツの作成に取り組んでまいりました。昨年度、日本損害保険協会・生命保険文化センターとの間で締結した「保険教育に関する包括連携協定」に基づき、保険教育に関する取組みを発信するとともに、教材・ツール等の作成や情報提供機会の拡充等の新たな取組みについても、3者で連携・協働して検討してまいります。引き続き、業界横断での取組みを通じて、国民の皆さまの保険分野における金融リテラシー向上に貢献してまいります。

また政府は、デジタル社会への移行を主導し、すべての人がデジタル化のメリットを享受できる豊かな暮らしの実現に向けて、マイナンバーカードの普及等に取り組んでいます。

生命保険協会においても、デジタル技術の活用やマイナンバー制度の利活用によるお客さまの利便性向上に向けた取組みを行ってまいりました。

今年度は、会員各社のマイナンバー制度利活用に向けた取組みを後押しすることで、保険契約に係る各種手続きの効率化を促進し、デジタル社会の実現に貢献します。

3.持続可能な社会の実現に向けた取組み

気候変動をはじめとしたさまざまな社会課題が顕在化するなか、「いま」を生きる私たちには、生活基盤となる社会や環境を維持するとともに、将来を担う「未来世代」に持続可能な社会をつなぐ使命があります。

そのようななか、生命保険会社には、生命保険事業を行う事業会社としての側面と、約400兆円の総資産を保有する責任ある機関投資家としての側面の両面を持つ存在として、さらなる役割発揮が求められていると認識しております。

生命保険協会では、生命保険業界におけるSDGs達成に向けた重点項目を定め、気候変動や人権等に関するハンドブックの作成や実務担当者向けの勉強会等を通じ、会員各社の取組みを後押ししてまいりました。今年度は、会員各社に対する情報提供を継続することに加え、お客さまに、生命保険業界の持続可能な社会への貢献にかかる取組みに関する理解を深めていただけるよう対外周知に取り組みます。

また、生命保険業界は、機関投資家として、国民生活を支えるインフラ基盤や成長分野への投融資を通じて我が国の経済活動の発展に貢献してまいりました。

今後も、ESG投融資やスチュワードシップ活動を通じて投融資先企業の企業価値向上を後押しするとともに、資産運用立国実現プランにおける金融・資本市場の活性化等への貢献に向けた取組みを推進し、積極的に発信することで、持続可能な社会の実現に向けてさらなる役割を発揮してまいります。

以上にあげた3点の取組みの軸に加え、生命保険業界がお客さまからの信頼を維持し、健全に発展していくための基盤整備に継続して取り組んでまいります。

税制面では、国民の皆さまが必要とする多様な生活保障の準備を支援・促進するため、生命保険料控除制度の拡充を引き続き要望してまいります。

かんぽ生命における業務範囲の拡大や加入限度額の引き上げ等については、中長期的に消費者利益を向上させるためには公正な競争条件の確保が不可欠であるとの考えのもと、市場への影響等を見極めつつ、必要に応じて意見を表明してまいります。

また、国際金融規制や国際会計基準、国内規制のあり方等について、我が国の生命保険事業の特性を踏まえた検討を進め、積極的に意見発信してまいります。加えて、当会の国際活動について、国内外に周知してまいります。

以上、協会長就任に際し、所信の一端を申し述べました。

時代の転換点のなかにあっても、生命保険業界の社会的使命を果たし、持続可能な社会に貢献するため、この一年間、全力で諸課題に取り組んでまいります。

皆さまにおかれましてもいっそうのご支援、ご協力を賜りますようお願い申しあげます。

以 上