生命保険協会長就任にあたって(所信)

未来のWell‐beingにつなげるために

2022年7月15日

一般社団法人 生命保険協会

会長 稲垣 精二

新型コロナウイルス感染症は私たち一人ひとりの生活様式や企業活動に大きな影響を与え、様々な変化をもたらしました。

生命保険業界においても、会員各社がデジタルツールを用いた非接触でのサービス提供を拡大するなど、お客さまとの接点の有り様を変化させてきました。また、新型コロナウイルス感染症による入院等に対して業界全体で延べ235万件を上回る給付金のお支払いを行うなど、コロナ禍にあっても変わらない生命保険会社の社会的使命を果たすべく活動を行っています。

こうした使命を果たしていくための大前提として、引き続き、顧客本位の業務運営を推進し、お客さま一人ひとりに真摯に向き合い、それぞれのニーズに見合ったサービスを提供していくことが重要であると考えています。

また、コロナ禍を契機に健康への不安が高まるといった意識の変化がみられるとともに、テレワークの拡大や消費行動の多様化が進むなど、人生100年時代の到来に向けて徐々に進みつつあったお客さまの価値観やライフスタイルの変化が急激に加速することとなりました。

こうした中、政府は「デジタル社会の実現に向けた重点計画」において、デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会を目指すとしています。生命保険業界においても、会員各社がデジタルツールの活用や各種サービスの手続きを非対面で完結できる取組みを進めているところですが、更なるデータ利活用等を通じて新たなサービスを生み出すなど、多様なニーズにお応えし続けていくことで、お客さまのWell-beingの実現に貢献できるのではないかと考えています。

加えて、将来にわたってお客さまのWell-beingの実現に貢献していくためには、持続可能な社会の構築が不可欠です。地球温暖化による気候変動は私たちの生活や生態系に様々な影響を及ぼしており、脱炭素化をはじめとする持続可能な社会の実現に向けた具体的な行動の重要性が益々高まっています。生命保険業界としても、機関投資家として、また社会を構成する事業会社の一員として、より一層貢献していく必要があると認識しています。

こうした認識のもと、今年度は次の2点を軸に取り組んでまいります。

1. 顧客本位の業務運営の推進に向けた取組み

コロナ禍ではデジタルツールの活用により、多様な接点を通じたコンサルティング・サービス提供等が可能となるなど、お客さまの利便性が高まりました。こうした各種接点の中で、生命保険会社が変わらぬ安心をお届けしていくためには、お客さまとの信頼関係を確保し、顧客本位の業務運営をより一層推進していくことが何よりも重要です。

コロナ禍で変化したお客さまとの接点の有り様なども踏まえ、引き続きお客さまとの信頼関係を積み上げていくためには、コンプライアンス・リスク管理態勢の高度化に向けた取組み等を進める必要があるとの認識のもと、生命保険協会として会員各社の取組みの高度化を後押しする更なる方策について検討を進めてまいります。

2. 未来のWell-beingの実現に向けた取組み

  1. (1)デジタル社会の実現に向けた生命保険業界としての役割発揮
  2. 社会全般におけるデジタル化がコロナ禍において一層加速しており、社会保障制度についても医療・介護分野のDXを含む技術革新を通じたサービスの効率化・向上を図る取組みが進められています。

    デジタル技術を介して様々なものが繋がり、効率化していく中で、社会保障制度を補完する生命保険業界としても、社会保障分野のデジタル化の動向を的確に捉えつつ、生命保険を通じた安心をお客さまにとってより効率的に提供していくことが重要であると考えています。

    こうした考えのもと、諸外国の社会保障制度や私的保障におけるデジタル技術の活用事例に加え、我が国のマイナンバー制度等を通じたデータ利活用事例などを活用した各種手続き等に関する調査・研究を進めてまいります。こうした調査・研究の内容も踏まえつつ生命保険会社として更なる効果的なサービス提供の可能性等について検討し、積極的に意見発信を行ってまいります。

  3. (2)持続可能な社会の実現に向けた生命保険業界としての役割発揮
  4. 生命保険業界は約410兆円の総資産を保有する機関投資家として、投融資を通じて産業発展・経済活性化に貢献するなど、我が国の経済において重要な役割を担っています。今後も引き続き、ESG投融資やスチュワードシップ活動を通じた投融資先企業の企業価値向上や持続可能な経済成長への貢献に向けた取組みを進めてまいります。

    また、生命保険協会としても生命保険業界におけるSDGs達成に向けた重点項目を定め、近年、シンポジウムの開催をはじめとする各種取組みを進めています。これまでは気候変動に関するテーマを中心に取り組んできましたが、SDGsの目標に示されるように、人権や生物多様性に関連する課題など、幅広い分野への対応が求められています。このため、今年度は生命保険協会として更に取組みを進めるべきテーマについて、足元の環境変化等も踏まえて生命保険業界としてどのような役割発揮ができるかといった点に関する動向調査を行うとともに、改めて検討を進めてまいります。

  5. (3)事業の健全な発展に向けた基盤整備
  6. 前例のない不確実な時代においても、お客さまからの信頼を維持し、生命保険業界が健全に発展していくための基盤整備に継続して取り組んでまいります。

    税制面では、国民の皆さまが必要とする私的保障の準備を支援・促進するため、生命保険料控除制度の拡充等を引き続き要望してまいります。会計面では、我が国の生命保険事業の特性を踏まえた国際金融規制や国際会計基準、国内規制のあり方等について検討を進め、積極的に意見を発信してまいります。

    また、かんぽ生命における業務範囲の拡大や加入限度額の引上げ等については、中長期的に消費者利益を向上させるためには公正な競争条件の確保が不可欠であるとの考えのもと、市場への影響等を見極めつつ、必要に応じて意見を表明してまいります。

以上、協会長就任に際し、所信の一端を申し述べました。これらの取組みを通じて、お客さまの未来のWell-beingにつなげられるよう、この一年間、全力で諸課題に取り組んでまいります。皆さまにおかれましても、一層のご支援、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。

以 上