「Insurance Forum Japan 2019」を開催 (2019.6.5)

一般社団法人生命保険協会(会長:稲垣精二 第一生命保険社長)は、2019年6月5日(水)に品川プリンスホテル(東京都品川区高輪4-10-30)にて「Insurance Forum Japan 2019」を開催しました。(協賛:国際保険協会連盟(GFIA)と一般社団法人日本損害保険協会(GIAJ))


このフォーラムでは、G20サミットの財務トラックプライオリティーのうち、保険業界に特に関わりの深いテーマを選定し、「デジタル技術(高齢化社会を踏まえて)」、「高齢化への対応」、「レジリエント・エコノミー構築への貢献」、「高齢化への対応およびレジリエント・エコノミー構築と国際保険監督基準」の4つのテーマについて、パネルディスカッションを実施しました。当日は、世界21カ国から保険監督当局者や保険会社の幹部等を含む約240名が集まり議論を行いました。

主催挨拶(生命保険協会 会長 稲垣 精二)

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会長の稲垣より、「生命保険協会では、高齢化に関する課題解決に向けた生命保険業界の役割について議論を進めてきた。生命保険業界が更なる飛躍を遂げていくためには、3つの「P」(Preparedness(心構え)/Protection(保障)/Prevention(予防))が必要である。また、地震や台風などの自然災害の多い日本においてレジリエント・エコノミーの構築は大きな課題であり、東日本大震災などの経験を今後も活かしながら、官民が協力して取り組みを進めている」と、日本の現状を述べた上で、「本フォーラムのテーマはグローバルな社会課題であり、本日は、これらの課題に対して保険業界の果たすべき役割について議論したい」と挨拶しました。

来賓挨拶(副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣(金融担当) 麻生 太郎氏)

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来賓の麻生 太郎 副総理からは、G20のプライオリティーに関連付けたアジェンダを設定し、国内外から多数の保険関係者を集め、議論を行う本フォーラムに対して歓迎の意が示されるとともに、「今年のG20財務トラックプライオリティーには、高齢化社会への対応、インフラの整備、世界各地で起きている自然災害の被害の増加など、保険業界と関連の深い課題が含まれている。保険会社が世界の抱えるこうした諸課題に対してどう向き合おうとしているのか、本フォーラムを機会に、新たな示唆が生まれ、関係者間の連携が深まれば良いと考えている」とご挨拶をいただきました。

来賓挨拶(アルゼンチン保険監督庁 長官 Juan Pazo氏)

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来賓のアルゼンチン保険監督庁 Juan Pazo長官より、「昨年、アルゼンチンで初めてG20に関連して保険をテーマとしたInsurance Forumを開催し、G20の議題の中で保険が果たす役割を発信できた。このフォーラムで培われる連帯感は、政府と民間が共通の目標に向かって協力し、取り組んでいく上での最大の成果となるだろう。保険業界として、グローバルな課題に関する議論を続けるために、このフォーラムを今後も継続していくことが不可欠である」とご挨拶をいただきました。


基調講演(金融庁 長官 遠藤 俊英氏)

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金融庁 遠藤 俊英 長官による基調講演では、高齢化について「保険業界に対して様々な課題をもたらすが、逆に高齢化社会のニーズを認識し、満たすことができればビジネスチャンスに変えることができる」と述べた上で、ビッグデータ等の技術革新を活用した商品・サービスの開発事例などをご説明されました。また、金融リテラシ―の重要性に触れ、今年5月の生命保険協会が創設した「自助の日」に開催したイベントを評価するとともに、金融リテラシー向上に向けた保険業界の更なる役割発揮について期待を述べられました。最後に、「高齢化は日本だけの問題ではない。日本の金融サービスが持続可能なビジネスモデルを作っていくことで、他の国々にも示唆を与えるだろう」との発言がありました。


パネルディスカッション【テーマ①】「デジタル技術(高齢化社会を踏まえて)」

【モデレーター】
 OECD(経済協力開発機構)保険・私的年金委員会
    (Insurance and Private Pensions Committee) 議長 河合 美宏氏
   【パネリスト】
 香港保険監督庁 長官 Clement Cheung Wan-ching氏
 慶應義塾大学 医学部医療政策・管理学教室 教授 宮田 裕章氏
 シンガポール通貨監督庁 総裁補(銀行・保険グループ監督局担当) Ho Hern Shin氏
 スイス・リー・マネジメント 定性的リスク管理部門長 Nina Arquint氏
 衆安インターナショナル 社長 Wayne Xu氏


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「デジタル技術(高齢化社会を踏まえて)」をテーマとしたパネルディスカッションでは、全世界の様々な国と地域におけるデジタル化による保険事業への影響と、人々が単に「長生き」するだけでなく、「よりよく生きる」ことを支援するためのデジタル技術の活用方法について議論しました。

高齢化がグローバルな現象となる中で、パネリストからは、フィンテックの潮流から排除もしくは置き去りにされやすい高齢者の金融包摂(金融サービスにアクセス・利用できる状況)を強化するためにデジタル技術を用いている様々な国の事例の紹介がありました。

その上でデジタル技術については、例えば、AIの偏った利用により、誤選択や情報の非対称性等を伴い弊害が起こりうる点を認めながらも、それ以上に金融包摂の強化に貢献するだろうと前向きな姿勢が表明されました。

また、潜在的な差別を避けることと顧客のことをよく知ることの適切なバランスを保つため、規制当局が果たすことができる役割の一例として、保険業界がAIを利用する場合には、FEAT(Fairness (公正)/ Ethics(倫理)/Accountability(説明責任)/Transparency(透明性))の原則に従うようにガイドラインを設定することが示されました。

最後に、保険業界が直面するデジタル化時代の課題に対する包括的な解決策を提供するために官民協力の重要性を強調し、議論を締めくくりました。

パネルディスカッション【テーマ②】「高齢化への対応」

【モデレーター】
 OECD(経済協力開発機構) 事務次長 河野 正道氏
   【パネリスト】
 元RGA CEO  Greig Woodring氏
 欧州保険協会 事務局長 Michaela Koller氏
 ペンシルベニア大学ウォートン校 教授 Olivia S. Mitchell氏
 生命保険協会 会長 稲垣 精二


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「高齢化への対応」をテーマとしたパネルディスカッションでは、高齢化について、先進国、発展途上国を問わないグローバルな現象であり、今後ますます加速していく状況にあることを認識したうえで、各国の高齢者を取り巻く課題や環境は大きく異なるため、課題に適切に対処するためには多層的なアプローチを検討する必要があることについて議論しました。

まず、世界的な高齢化の概要と高齢者が金融に対して脆弱であること(デジタル技術への対応力が低いこと、金融リテラシーが低いことおよび金融サービスへのアクセスが困難であること等)について、最新のデータと事例を提示した上で、高齢者向けの商品やサービスを提供するための革新的技術を組み込んだ先進的な取組みを共有しました。また、金融ジェロントロジー(金融老年学)を含め、高齢者の健康状態や認知能力または身体能力の低下に対応する取組みに役立つ最先端の知識も取り上げました。

そして、本パネルディスカッションでは、(1)健康増進と同時に、リスクの理解とリスクの緩和を重視した金融リテラシーを促進すること、(2)最先端技術を活用して、高齢者の生活環境を改善するイノベーションを促進すること、(3)保険や年金を対象とする税制優遇策または補助金を通じ、「自助」のインセンティブを与えること、(4)保険会社に超長期保障の提供をし続けやすい規制・監督の枠組みを促進することの重要性について共有しました。

パネルディスカッション【テーマ③】「レジリエント・エコノミー構築への貢献」

【モデレーター】
 カナダ損害保険協会 会長 Don Forgeron氏
   【パネリスト】
 世界銀行 副総裁 Ceyla Pazarbasioglu氏
 SOMPOリスクマネジメント株式会社 リスクマネジメント部 部長 福渡 潔氏
 アジア開発銀行研究所 所長 吉野 直行氏
 AIG 上級副社長(政務業務、公共政策およびコミュニケーション部門担当)
    Thomas Leonardi氏


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「レジリエント・エコノミー構築への貢献」をテーマとしたパネルディスカッションでは、保険会社が提供する保障が自然災害のリスクを十分カバーできない場合、リスクは潜在的に国家に移転され、国家の財政と経済全体に対するリスクとなり、財政回復を遅らせかねない事態になりうるとの懸念が示されました。そして、自然災害に対する保障の提供が、経済と社会をサポートする重要な社会インフラとしての役割を担っているという点を確認しあうとともに、政治リスク等のインフラ投資に関するリスクに保障を提供するためには、更なるデータ開示が必要であると提言しました。

次に、G20議長国として日本が重要な優先課題の1つに掲げている、質の高いインフラ投資を通じた、力強い成長の促進と適応力の高いコミュニティの構築に向けて取り得る施策について検討しました。議論を通じて、インフラ投資の収益率の低さ、政府による社会的セーフティネット等のリスク緩和のための方策および規制を含むビジネス環境において、インフラ投資に対する投資家の意欲を制約する課題があるという見解を共有しました。そして、政策立案者に対して、収益率の向上や適切に設計された規制等、質の高いインフラ投資を促進するための提案を行いました。

最後に、強靭な経済の構築に向けた取組みを推進するため、保険業界の積極的関与の重要性を強調し、ローカルおよびグローバル双方のレベルでのリーダーシップ発揮が求められるとして、議論を締めくくりました。

パネルディスカッション【テーマ④】「高齢化への対応およびレジリエント・エコノミー構築と国際保険監督基準」

【モデレーター】
 IAIS(保険監督者国際機構) 事務局長 Jonathan Dixon氏
   【パネリスト】
 デロイトUK パートナー Andrew Bulley氏
 プルデンシャル・ファイナンシャル 国際規制担当部門長 Bryan Pickel氏
 NAIC(全米保険監督官協会) 市場規制および消費者問題委員会委員長
    Chlora Lindley-Myers氏
 金融庁総合政策局 国際政策管理官 太田 浩氏
 EIOPA(欧州保険・年金監督局) 政策局長 Manuela Zweimueller氏
 アリアンツ CRO Tomas Wilson氏


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「高齢化への対応およびレジリエント・エコノミー構築と国際保険監督基準」をテーマとしたパネルディスカッションでは、これまでのパネルディスカッションにおける議論を踏まえ、国際保険監督の枠組みにおける重要トピックについて議論しました。

まず、高齢化および強靭な経済の構築に対応するための規制および監督の枠組みについて議論し、規制や監督が長期的商品の提供やインフラ投資の障壁になるべきではないという見解を共有しました。

また、IAISが検討を進めるICS(保険資本基準)では、リスク設定において、金融の安定性、保険契約者保護および保険の社会的役割などの様々な要素を考慮した適切なバランスを見つけることが非常に重要であり、大胆な調整と柔軟性が鍵であるという認識が共有されました。加えて、ICSについて、各国における保険事業の性質、リスク管理やガバナンスなど、監督上の定性的要件を考慮した知見が新たに反映されるべきであるという議論がありました。

次に、高齢者の金融包摂のためのデジタル技術活用に係る課題について議論しました。近年、機能ベースのビジネスモデルが登場し、消費者が仲介者の関与なしでより多くの保険商品を購入できるようになったりしたことを踏まえ、パネリストは、現在の規制がデジタル時代に十分であるかどうかを議論しました。また、デジタル技術の発展に伴って、高齢者が保険に加入できないような状況に陥ることがあるかもしれないという倫理的な問題にも触れ、AIやビッグデータの使用におけるデータの偏りの問題やAIによる判断のブラックボックス化の問題が議論されました。

これらの課題への対応にあたり、説明責任および顧客を公平に扱う企業文化が包括的な原則となるべきであり、監督当局は、デジタル技術に対する中立的な立場を取り、多くの専門分野にわたったアプローチを考慮すべきであると議論を締めくくりました。

閉会挨拶(GFIA(国際保険協会連盟) 会長 Recaredo Arias氏)

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閉会にあたり、GFIA(国際保険協会連盟)Recaredo Arias会長より、本フォーラムを振り返り、「本日のテーマはあらゆる観点で分析しないといけない問題であり、各セッションでは、登壇者から技術革新の活用や規制のあり方など、様々な視点での意見・見識をいただけた。非常に興味深い、豊かな一日だった。保険業界は経済と社会で重要な役割を果たしていると確信している」とご挨拶をいただき、本フォーラムは幕を閉じました。